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すべての人に、宝物を

星空のような靴

夜のスタジアムで、フットボーラーとキャスターが対談している。論理を大切にする者と、感情を大切にする者。何をテーマにしても、話は平行線を辿っている。二人の椅子はちょうどピッチの中心で向かい合っており、その構図が両者の対立を感じさせた。

一時間の対決の末、一方が空を見上げて言う。

「星が綺麗ですね」

そして、もう一方が返す。

「ああ、綺麗だ」

2人は固い握手を交わし、番組は終了した。

本書では、現代では品質と無関係に売れ行きが決まり、従って品質が高い靴も淘汰されるため、品質を重視する者にとって現在の状況は不利であると述べた。その上で、いかにして品質が高い靴を残すかを述べた。だが、全ての靴好きが品質を重視するわけではない。ある者は、例えば世間からの評価やイメージ、ステータスを重視する。

テレビに登場したフットボーラーとキャスター、そして、品質を重視する者とそうでない者。それぞれの考え方は異なる。だが、同じ星空を眺めれば、その綺麗さに共感する。そして、人間は日々変化し、ある意味で別の人間に変化していくわけだが、星空が綺麗だと感じることに変わりはない。

あらゆる人間、あらゆる心に共通の感性がある。その感性に響くものが、優れた芸術であり、美しい景色である。そして品質第一主義の靴作りを極めた先には、それらと同質の「作品」がある。

ただ高品質な靴は、品質を重視する者だけを対象とするが、常軌を逸するほどに高品質な靴は、あらゆる者を対象とする。実は、突き抜けた品質第一主義は、マス戦略としての可能性を秘めている。

星空のような靴を作る。星空が綺麗に見えるスポットを友人に示すように、人々がその靴を伝えていく。そして、星空を眺めて人々が共鳴するように、作品たる靴を眺めて、あらゆる人々が共鳴する。旅先で見た壮大な星空を忘れないように、人々はその作品を忘れない。

これが私の思い描く新たなブランド像である。あなたがそこで宝物と出会えば、時代がどう変わっても、あなたがどう変わっても、それはあなたにとっての宝物であり続けるだろう。そして、こんなブランドが増えれば、全ての人が宝物だと思える靴を履き続けられるだろう。

われわれは今、この理想に向かっているのだ。

『新・ブランド論』文:Tohru Shiina 編訳:Kohki Kazami

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