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まとめとコラム

ここまでのまとめ

私は、世界がもっと良い場所になるために、全ての人が宝物だと思える靴を履いて欲しいと願っている。だが、品質を第一に重要視して靴を選ぶ人が、宝物だと思える靴を手にするのは難しくなっている。

消費者は、欲求の連鎖を経て何かを買う。欲求や欲求の連鎖は外部からの刺激によって活性化するが、現代はその刺激が過大である。過大な刺激によって、大半の消費者は、世間からの評価およびイメージ(世間の判定)を重視し、人気アイテムに集中する。すると、人気アイテムを頂点とするピラミッドが市場を埋めていく。

ピラミッド内の靴は品質が高いとは限らず、ピラミッドの上位に位置する靴ほど品質が高いとは限らない。そして、ピラミッド内の靴が生き残る一方、 ピラミッド外の靴は淘汰される。淘汰されるものの中には、品質が高い靴も数多くある。

もしあなたが、品質を第一に重要視して靴を選んでいたとしても、大半の消費者が世間からの評価およびイメージ(世間の判定)を重視して靴を選ぶ限り、あなたにとっての宝物(本当に品質が高い靴)は淘汰される可能性がある。この可能性を下げる方法は、同志全員で「票を投じる」ことである。

だが、それはせいぜい現状維持(今ある宝物を守ること)にしかならない。すなわち、新たな宝物が生まれることはない。では、いかにしてそれを可能にするか。それが次章以降のテーマである。

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初心者の買い物

先へ進む前に、私の経験を踏まえたアドバイスをしたい。品質を求める方々へ向けたアドバイスである。

この本のここまでの内容から、品質を求める上では世間の声は当てにならないと言える。だが、いかなる趣味においても、初心者の段階では自分自身で品質を完璧に測ることは難しく、何らかの拠り所が欲しくなる。そこで私は、メンターのような存在をみつけることをおすすめする。

数年前、来賓のためにオーディオセットが急遽必要になり、熟考なしに人気のセット(約200万円)を購入した。せっかく購入したので、接待の用が終わった後も使用していた。だが、2年使っても、200万円分の良さを感じられなかった。それどころか、数十万円のセットとの違いも感じられなかった。高級靴の違いを区別することと比較して、オーディオ製品の違いを区別することは各段に難しいのだ。

そこで、音楽家の友人の協力を得て、新しいセットを買い直すことにした。彼とは、最も深いところで共感し合える感覚があり、そこから派生する諸々のこと(例えば、仕事に対する考え方、恋愛に対する考え方など)についても同様だった。そんな彼が選ぶ製品であれば、私にもその良さが理解できるかもしれないと思った。だから、彼の協力を得ることにしたのだ。

新しいセットも、当初は他との違いが分からなかった。だが、しばらくすると少しずつ他との違いが分かるようになり、やがて、はっきりと分かるようになった。新しいセットは、最初に揃えたセットよりも明らかに高音質だと感じた。それ以降も、色んなセットと聴き比べたが、常にこの新しいセットが勝った。

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私が高級靴を集め始めたとき、メンターは父だった。当初、父の哲学(靴選びの根本にある考え方)には共感していたものの、父が選んだ靴の良さは理解しきれなかった。だが、自分自身で色んな靴を買い、生産現場にも出入りするうちに、それが少しずつ理解できるようになった。やがて、父が選んだ靴こそ、本当に品質が高いのだと知った。

これらの例のように、ある分野において初心者の段階(自分自身で品質を完璧に測ることが難しい段階)では、根幹で共感できる人物をメンターとするのが良いだろう。そういった人物が選ぶものは、あなたにとって品質が高いと感じられるものになることが多い。これから花を咲かせたいなら、自分と同じ根、同じ幹を持った木から学ぶべきなのだ。

世間の声を当てにするなら、手に入れたものに対して、後から「これは、本当に求めていたものではなかった」と気づくことが多い。それとは全くの真逆に、根幹で共感できる人物を拠り所にするなら、手に入れたものに対して、後から「これこそが、本当に求めていたものだ」と気づくことが多いのだ。

もちろん、メンターに完全に頼りきるのは危険である。品質の高低を測るのは、常にあなたの五感である。メンターに案内されながらも、自らの足で進む感覚が大切だ。

同様のことは、金融商品や不動産など、その品質を測るために専門的な知識が必要な商品を買う際にも有効になる。商品の内容だけでなく、営業マンが持つ哲学を知る。そして、自分自身での熟考に「この哲学を持った人物が推すものは、いかなる品質か」という考察を加えると、良い意思決定ができる場合が多い。

製品を求めるのではなく、まずは、メンターのような存在を求める。そして、彼を通じて宝物を得る。初心者の段階では、こんな買い物をおすすめしたい。アノニマスな世間の声に翻弄されやすい現代だからこそ、有用性を増す方法である。

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