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翻弄されず、票を投じる

刺激が多い時代で

消費者は、欲求の連鎖を経て何かを買う。そして、欲求や欲求の連鎖は、外部からの刺激によって活性化する。例えば、モテる友人と話せばモテたい欲求が強くなり、それが品の良い休日のファッションへの欲求に繋がり、さらにはデニムに合う革靴への欲求に繋がり、最終的には特定モデルへの欲求に繋がっていく。この過程で、例えば、デニムと革靴のコーディネートを街で見かける機会があれば、デニムに合う革靴への欲求がさらに強くなるだろう。

現代は、こういった刺激が多い時代だ。スポーツニュースを読んでいたらクルマの広告が目に留まり、そこから販促ページへ遷移し、YouTubeでレビューを観る。すると、クルマを買い替えたい欲求や、ある車種への欲求が生まれる。さらに、その車種のクルマに乗っている人々のInstagramを見るようになって、ステータスを誇れるアイテムへの欲求が生まれ、それが高級時計への欲求に繋がるといったこともあるだろう。この例のようなことを、われわれは一日を通して何度も経験する。

あなたは無限の情報に刺激され、より多様で、より強力で、より多くの欲求を持つ。それを充足する過程で何かを生み出し、何かを解決し、成長していく。それは人生の醍醐味であり、素晴らしいことだ。さらに、欲求の充足のために購入したものが、あなたにとっての宝物になれば完璧だ。

しかし、われわれは、無限の情報に刺激され、翻弄される。自分にとって重要でないことを追ってしまい、本当に重要なことを逃してしまう。その結果、夢中になって手に入れたものが、実は本当に欲しかったものではないと気づき、自分が宝物を持っていないことを知る。

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宝物の消失

宝物を持っていないことを知れば、改めてそれを探し直せばいい。だが、その時には、もはや手遅れになっていることもあり得る。

売り手は、より需要があると予想されるものを供給する。消費者が何かを買うことは、需要と供給を一致させることであり、売り手に対し、その対象に需要があると伝えることである。すなわち 「票を投じる」ようなものだ。得票数が多いものは市場に残り、得票数が少ないものは市場から淘汰される。

無限の情報に刺激されれば、われわれは翻弄され、人気アイテムを追うことになる。そのアイテムや、その類似アイテムが得票数を伸ばす。やがて、数多のオマージュやコピーに近いオマージュが登場し、同様に得票数を伸ばしていく。これらのアイテムは、流行の元になったアイテムを頂点、複数の類似アイテムを中層、数多のオマージュを下層とするピラミッドを構築し、市場を埋めていく。翻弄される人々が多いほど、また、流行が長引くほど、このピラミッドは巨大化する。

一方、ピラミッドに属さないアイテムは得票数を落とし、やがて市場から淘汰される。われわれの一部は、ピラミッドの中のアイテムが、実は本当に欲しかったものではないと気づき、宝物を探し直すが、そうなるはずのものは既に消えているかもしれない。

2000年代後半から2010年代半ばにかけて、ロングノーズのラストが人気になった。また、ロングノーズのラストに合うパターンとして、スワローモカのような比較的新しいパターンも人気になった。上位ブランドから下位ブランドまで、こぞってこの流行に乗じ、ロングノーズシューズのピラミッドが市場を埋めていった。一方、ショートノーズシューズは淘汰されていった。例えば某英国靴ブランドは、かつてフラッグシップモデルとしていたショートノーズのモデルを廃止した。

ロングノーズの人気モデルを買ったものの、後から自分はショートノーズが好きだと気づいた。改めて探し直したが、ショートノーズシューズの選択肢が激減していて困惑した。こんな経験をする人が多かった。

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時代を味方にするために

宝物を手にするためには、無限の情報に対して、自分にとって重要なこととそうでないことを仕分ける意識を保ち、世間に流されずにいる必要がある。すなわち、翻弄されないでいることが必要である。

だが、宝物を手にし続けるためには(継続的に、宝物を手にするためには)それだけでは不十分だ。何もせずにいれば、人気アイテムを頂点とするピラミッドが巨大化して市場を埋めていく一方で、そこに属さないアイテムは淘汰される。いつか自分にとっての宝物が淘汰されるかもしれない。

自分は翻弄されずに、ずっとショートノーズを好きでいた。だが、自分以外の大半の人々が翻弄され、ロングノーズシューズを追いかけた結果、お気に入りのショートノーズのモデルが廃止された。こんな経験をするのだ。

そこで、しっかり「票を投じる」ことが必要である。すなわち、需要をアピールするのだ。その方法は購買だけではない。その他に、自ら発信することや、誰かの発信をシェアすることもある。自分一人が投票しても無意味だという考えもあるだろうが、翻弄されない人々全員が投票すれば、市場は変わると思う。選挙権を行使するように、購買し、情報を発信・拡散して、この世界を変えるのだ。

私自身も「翻弄されず、票を投じる」と肝に銘じている。全員がそうするなら、無限の情報による刺激は、われわれにとって悪ではない。それは、宝物に出会うための強力な後押しになる。そして、現代は最高の環境になる。

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