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ウェブブック公開にあたって

文:Tohru Shiina 編訳:Kohki Kazami

私は、靴を制作する人間ではない。したがって、制作そのものについて語るべきではない。

私は、一介の履き手である。多くの靴好きと同じように、有名なモデルから珍しいモデル、英国靴から東欧靴へと買い集めた。だが、どれだけ集めても、完璧に満足できるものは稀だった。

優れた制作者がいれば、優れた靴が生まれるわけではない。私は、革靴業界には優れた制作者が多いが、優れた靴は少ないと感じる。そしてその要因は、経営上の方針や、消費者のマインド(また、消費者のマインドを形成するメディアや社会のあり方)といった、制作そのもの以外のことにあると考える。

優れた大工がいれば、優れた建築が生まれるわけではない。大工の他に、例えば、設計士、施主、街、社会が建築を作っている。優れた建築が生まれるには、優れた大工、優れた設計士、優れた施主、優れた街、優れた社会が必要である。

同様に、優れた靴が生まれるには、優れた制作者のみならず、優れた経営方針、優れた消費者、優れたメディア、優れた社会が必要なのだ。

紆余曲折を経て、私は実業家をしている。そこで、前述の要因(例えば、経営上の方針や、消費者のマインド等)を深堀りすることを副次の目的として、欧州の様々な靴メーカーやブランドでも、出資やコンサルティングを行ってきた。ここで公開する本は、その活動を通じた考察である。

本当に優れた靴とは何か。優れた靴を生むためにブランドや業界はどうあるべきか。人々がこういったことを考えるきっかけを作り、革靴業界の変化、高級靴市場の成長に僅かでも貢献したい。

私は制作できない人間でありながら、制作する人間の近くにいたため、彼らの凄さや彼らの努力を人一倍知っている。革靴業界の変化、高級靴市場の成長によって、彼らがもっと報われるようになって欲しい。

以上の意図で、これらの本を公開している。

Tohru Shiina